ぶんぐっデイ

文具が好きです。気持ちを残せるから。

10年来の友人に連絡をとった

自分も歳を取ったと思った。学生時代にできた外国人の友人と出会ったのはもう10数年前のことになる。とは言っても、心は若いと思っているけれど。笑

 

学生時代にその友人と初めて会ったのは、いつかの記事で書いた恩師と慕う方の居室だったと思う。僕は留学生のサポートをするような団体の代表をしていたので、そういう機会は割とあった。

 

その時の僕はその国に対して、特別な思い入れがあったわけではなかった。むしろ違う国に興味があったので、失礼だけれど「たくさんいる留学生の一人」として挨拶をした。

それから彼女とは何かと会う機会が多く、当時はお互いにファンキーな性格ということもあってすぐに仲良くなった。

出会った頃の彼女はまったく日本語が話せなかった。僕も英語がギリギリなんとかなるくらいだったので、自信なさげに話すことしかできていなかったと思う。それでも、人一倍明るい彼女は、しゃべれない僕にもたくさん話しかけてくれたし、一緒に笑いあう機会をくれた。

 

彼女には、日本に来てから片思いの相手がいた。相手は僕にとって”顔見知り”ぐらいの存在。なんとなく知っているけど、そこまで絡んだことはなかった。学生時代の僕はそれなりに交流範囲が広かったのもあってか、すぐにその彼とも知り合いになった。

第一印象は、「人間に興味が無さそう」だった。何度か会って話をする関係になるうちに、彼は思っていたよりよく笑う人だということがわかった。人には相変わらず興味はなさそうだったけれど。

 

ある時、彼女から連絡が来た。足を怪我してしまったと言う。彼女の宿舎にエレベーターは無く、慣れない松葉杖で最上階にある自分の部屋まで帰れないということだった。

彼女は僕一人でも持ち上げられそうな見た目ではあったけれど、おんぶもお姫様抱っこも違うような気がしたので、僕は力持ちの友人に同行してもらった。

二人で彼女を自室まで送り届けた。その後、力持ちの友人は帰宅。彼女から「ちょっとまだ手伝ってほしいことがある」と頼まれたので僕は残った。

「シャワーを浴びるから待っていてほしい」とのことだったので部屋の外の非常階段で過ごした。とても寒い日だったのを覚えている。シャワーを浴びている女性の部屋に一人でいるのはなんか違う気がして、ぼーっと待っていた。

 

しばらくして彼女が出てきた。非常階段の一番上の段に座る僕の隣に座り込む。狭い非常階段だったけれど、拳一つ分くらいあけた隣に彼女がいる。

シャワーを浴びた後だったので「身体冷えちゃうよ。手伝ってほしいこと言ってくれたら、やっておくよ。なんか買ってきてとか運んでとか、なんでも言ってね。」と伝えると、彼女は泣き出した。

 

僕は戸惑った。友人とは言え、女性の涙を見るのはとても心が締め付けられる。なぜだかわからないが、男の友人が泣いていても平気なのだが、女性の涙は心理的にキツイ。これは今でも変わらないと思う。ドラマや映画でも直接見ると胸が締め付けられそうになる。

これは僕の言葉に対しての涙じゃないぽいなと気付きつつ、「どうしたの?」と尋ねる。なんとなくそんな気がした”彼”についてのことだった。

留学なんてそんなもんだが、彼女は一人でここへ来たため、誰にも気持ちを相談できず、振り向いてもらえない彼に対する溢れた想いを、僕の前で出してしまったようだ。

 

何もできず泣きじゃくる彼女の隣に座り続ける。なんと声をかけたらいいのかわからない。片思いの女性が泣くほどにつらい気持ちは、わかった気になる方が失礼だとも思う。

 

しばらく泣いた後、彼女は「ありがとう」と言って部屋に戻った。手伝ってほしいことはなんだったのかわからなかったけれど、その日は帰宅した。

手伝ってほしいことなんて本当は無くて、慣れない環境で怪我をして、不安な気持ちが爆発して誰かに話しを聞いてほしかったのかもしれない。話そうとして僕の隣に座ったけれど、言葉より先に涙が出てしまって止まらなかったのかもしれない。

 

次の日の朝、彼女から「また階段てつだって」と連絡が来た。目を腫らしていたけれど、昨日の話はしてこない。僕も昨日のことには触れなかった。

 

その出来事があってから、僕と彼女はもっと仲良くなった。なんとなくアンフェアな気がしたので、僕が気になっている人の話をしたら、彼女は「私に秘密を話した」とケタケタ笑っていた。

 

そんな彼女に久々に連絡をしてみた。数年ぶりだった。前回がいつだったのかも思い出せない。

なぜ急に連絡を取ろうと思ったのかというと、彼女は僕の「らんちゃん」という名前の名付け親で、最近仲良くなった人に「らんちゃん」とたくさん呼びかけてもらったおかげで、彼女に名付けてもらったときのことを思い出したのが大きいと思う。

 

少し話は戻ってしまうけれど、彼女は留学中に持ち前の明るさで友達をたくさん作った。それもあって、帰国前には意思疎通には問題ないどころか、かなり流暢に日本語が話せるようになった。

 

とはいえ、もうあれから10年も経つ。まだ日本語話せるのかどうかもわからないほど久々だったので、一応英語で話しかけてみた。

「久しぶり。特に話すべきニュースはないんだけど、元気?」

 

彼女からも英語で返信が来た。やっぱり日本語忘れてるのかもしれない。

「めっちゃ久しぶり!私結婚したの。相手の名前ね、なんとらんちゃんと同じ名前だよ!」

 

彼女は幸せになったらしい。それはいいニュースだ。連絡してよかったと思った。

「その人は絶対良い人だな!」と返した。